その小学校は、都心から車で2時間ほどの観光地のはずれに建っている。山と湖に囲まれ、美しい空気と水と景観は、独自の教育方針に説得力を裏付けるのに充分だった。
ヨーロッパでは古くから知られているというその理念は、農業実習を通した自然との触れ合いを第一義にし、全寮制の体制の中で、農作業と授業を並行して行なうというものだった。
この学校では年に1度、子供たちが普段実践している農作業を親にも体験してもらうイベントがある。敷地内の施設に泊まり込んで作業をし、最終日に子供たちと対面するという内容だ。
集まったのは、ここに子供を預けている親たちと、指導の教員。一緒に過ごす数日間のあいだに、親たちそれぞれの思想とさまざまな背景が見えてくる。この学校の教育理念に心酔する男性。日本の教育システムに絶望している元教師。地球の未来は農業にかかっていると信じるエコロジスト。別の無認可の学校で子供を亡くし、それが原因で離婚した女性などなど。
イベント最終日の前夜、施設に1本の電話が入る。寮内で、ひとりの生徒が事故に遭い、命が危険な状態だと言う。だがそれが誰なのか、わからない。さらに学校側への連絡が何者かによって寸断される。外部への連絡も、山奥なのでもともと携帯はつながらない。焦る父兄たちは、子供たちが生活する寮へと向かう。
しかし外に出ると、この学校のシンボルである美しい畑が滅茶苦茶に荒らされ、寮も校舎ももぬけの殻だった。
愕然とする父兄たち。彼らは教員から、学校が秘密裏に進行させていたある“実験”の話が聞かされる。
驚き、怒り狂った父兄たちだったが、やがて、子供たちを救うひとつのアイデアを思いつく──。
人生に悩み、迷い、それを自分の子供にシフトすることで生きるバランスを保っていた父兄たち。これまでの人生で最大の理不尽に出合った時、とりあえず自分の思想は捨て、目の前にいる人間を受け入れて、ただひたすら前に進むことを決意する。余分な荷物を捨てた大人たちの、共謀と反撃のドラマが始まった。
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